原田マハ『サロメ』
以前モロー展で観た『出現』。あの絵で初めてサロメのモチーフを知りその禍々しさに、なんとも言えないドロっとした恐ろしさを感じた。
同じモチーフで書かれたオスカー・ワイルドの『サロメ』とビアズリーによる挿絵。そして更にその人間模様全体さえもをサロメというモチーフで語るのが本作原田マハの『サロメ』。禁断のテーマに魅せられた人々がサロメさながらにその情念を露わにしていく様は、サロメというテーマにぴったりなドロドロした感情が渦巻いていて、非常に緊迫した空気感漂う作品となっていると思う。軽い方の原田マハさんが好きな人は、この展開には少し驚くのではないかな。
オーブリーとオスカー、ダグラスとオスカー、そしてメイベルの思い。サロメのモチーフが幾重にも重なったかのような展開はビアズリーの絵のように緻密で迫力がある。特に自身に内在するサロメ性に目覚めたメイベルは正にファムファタール。人生をかけてサロメを演じきったのだろう。メイベルのオスカーに対する感情は直接的な思いと屈折した思いが混ざったサロメそのものだったのかも知れない。やはり本当に怖いのは女の情念…
敢えて難を言うならオスカーの人物描写かな。それまでの怪しい雰囲気がパリ行きキャンセルから一転、一気に存在感がなくなるのは何かの意図があるのか。もう少しその魅力を厚く表現されていればラストシーンがもっと映えたかも。まぁ作者も編集者も考えた末でしょうからやっぱりこのバランスが良かったのかな。
あと皆さんの言うとおり現代パートは不要ではないかな…楽園のカンヴァスの二番煎じ感だけが残る。本編が良くできてるんだからこの仕掛けは蛇足と感じた。
そういった細かいところを除けば十分に楽しめる作品でした!
読了日:2020年6月21月 評価:★★★★☆
※テーマ画像は Gerd Altmann さんによる Pixabay からの画像をトリミングして使用しています。