村田沙耶香『生命式』
最初の「生命式」から狂ってる…というか正直気持ち悪い。正常は発狂の一種、何が社会的に正しいのか?と自分にしっくりくるのか?は別の話で自分自身の価値観もいつかの社会的価値観の影響下にあるとすると本当に正しいものってあるのだろうか?そんなあやふやな気持ちにさせられる作品。
続く「素敵な素材」もまた狂ってる。村田沙耶香らしくはあるがこの路線がエスカレートするとこのままファンでいられるか少々不安になる。生命式にも似たテーマにも思えるが、何か物質としてのヒトと生物としてのヒトの違いのあやふやさか?この話を読んで嫌悪感を全く感じない人は少ないと思うがその嫌悪感はどこから来るんだろう。
途中、短い話を挟みながら最後の3編がまた良い。特に最後の「孵化」は人間関係における心理を極端に強調して多重人格者の話であるようでいて日常に普通にあるような気もするこれも村田沙耶香さんらしい作品。
全般的に生きていく中で感じるちょっとした違和感をデフォルメして価値観を不安にさせられるような作品が多くファンなら間違いなく楽しめますし、村田沙耶香を読んだことがない人でも「らしさ」に溢れた作品なので良いと思います。(とはいえ初読なら「コンビニ人間」か「しろいろの街の〜」をお勧めします)
※自身のブクログから転載しています。
読了日:2019年11月4月 評価:★★★★☆
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遠野遥『改良』
先に芥川賞受賞作の破局を読んであまりにも理解が出来なかったので、逆に気になって読んでみた。で、結果やっぱりよくわからん…
そもそも破局もそうだが、文章が無味乾燥というかあっさりしている。というかあっさりしすぎている。『破局』を読んだ時は、審査員の書評などから何かの効果を狙ってのことなのかと思ったが、今作でも同様だった。
これがこの人の文体なんだろうけども、どうもピンとこない。一人称で語られているにもかかわらず全てのシーンが他人的でどうも感情移入できない。主人公の美しさへの拘りの拠り所やその葛藤が特に描かれるわけでもなく、性自認の問題を取り上げているわけでもない。
あえていうなら自己承認欲求についてがテーマなのかもしれない。音楽で自己表現を行っているつくねは見た目には美しくなくとも生き生きしており、そのポイントがないカオリは精神的に不安定、主人公はただ漫然と美しくなりたいと思いそれが自己承認欲求へと繋がっていくのかとも。
冒頭のテーマはラストシーンでの行動に繋がるのだろうけど、そうするとつくねの小学校時代の思い出話は何なのかタイトルの『改良』も何を示すのか?化粧をすること?知り合いに女装を見せること?暴漢に対する反抗か?しかしどれも改良と言うほどでもない。
やはり私にはよくわからない作品でした。
読了日:2021年1月31月 評価:★★☆☆☆
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高山羽根子『暗闇にレンズ』
映画の黎明から映像に関わり続けた一族の話。最初の軽めの雰囲気ながらカメラによる監視などからディストピア的な展開になるのかと思いきや、そういう訳でも無さそうな展開。
カットバックで進行していく物語は過去のウェイトが断然多く、現在の状態に至る流れがテーマで現在のシーンでは至った結果を読み取ればいいのかと思うが、それがよくわからない。
各場面場面はそれなりに面白く、特に照から始まる嘉納家の物語部分はここだけ取り出しても楽しめそうな感じで、それが現在とどうつながるのかという興味が原動力となり読み進めるのだが、過去の物語の視点が一定ではなくさらに現代のシーンが少なすぎるため、全体としてはどうも散漫な印象を持ってしまう。
現在の記述はディストピア的であるがそれが空想なのか現実の捉え方の問題なのかもよくわからない。過去パートも最後の方は未来ってぽい記述もありこのあたりも散漫と感じた原因だと思う。
あらゆる物事は最初の作者の意図とは別に一人歩きを始めそれは誰にも止める事はできない、あたりが主題なのか?照、未知江、ひかり、ルミ、そして私へと受け継がれていく思想めいたものをそのように捉えたが作者の意図はどこにあるのかはわからない。芥川賞受賞後の作品と思うが、小説を写真に見立ててこう記載しているのか?
首里の馬ではうまく保てていたと感じる散漫さとテーマ性のバランスがあったが、ここではそれがうまくいってないようにも思うが、それは私の読解力の問題かもしれない。他の方の感想を是非聞いてみたい。
※自身のブクログから転載しています。
読了日:2021年1月11月 評価:★★☆☆☆
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村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』
村田沙耶香さんらしい短編4編。そもそもタイトルからしてらしさ満開!
何が正解かよくわからなくなってくるというのはこの短編集に限らず共通のテーマ。表題作はそれを正義の問題として語られていると思うが、何ともコミカルな展開で哲学的な空気が微塵もないのがこの人らしい。
『無性教室』は性別と恋愛感情はどちらが先なのか?を問い、『変容』は価値観の曖昧さを問う。普通なら疑問をもたないような当たり前の事を疑う事で不安な気持ちにさせられる、そんないつもの村田沙耶香ワールドを堪能できました!
※自身のブクログから転載しています。
読了日:2020年3月1月 評価:★★★★☆
- 作者:村田 沙耶香
- 発売日: 2020/02/29
- メディア: 単行本
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遠野遥『破局』
ハードボイルド調の文体、しかも小泉進次郎構文のような文章、これは新しい表現のチャレンジなのか。しかし文体にはどうも明確に嫌悪感を感じる。
途中からちょっとした出来事の積み重ねから主人公の立ち位置が反転する。(タイトルからして予測はつくが)前半の流れとの対照で描かれてる感じでまぁ鮮やかと言えばそうなのかもしれないが、あくまでも主人公の主観から見ての対照であり外からは変わりのない状態と思われるので、大きなインパクトがあるわけでもない。
主人公は「こうあるべきが強い」「融通が極端に効かない」というタイプで、そういう人は最近多い気はするが、そういう世代を象徴した文学という感じでもない。また、いくつかのエピソードが出てくるが本筋との関係をどう考えればいいのかもよく分からない。
というわけで、この作品の魅力をどこに感じればいいのかよく分からない。ここ数年の芥川賞はほぼ読んでると思うが、本当に初めて何故これで受賞作なのかが全くわからないと思った作品。選評をまだ読んでいないので今から文藝春秋買いに行こうと思う。
まぁそういう意味ではインパクトはあったのか…新しいものを受け止めきれない自分がいるのかも知れない。
(追記)
文藝春秋で選評読んだ。大好きな小川洋子さんが絶賛だった…選評読んでるとなるほど、とも。読書力アップしなければ。そもそもハードポイルド文体が苦手なのでその時点で内容が読めてなかったかな。
読了日:2020年8月8月 評価:★☆☆☆☆
- 作者:遠野遥
- 発売日: 2020/07/04
- メディア: ペーパーバック
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多和田葉子『献灯使』
前に読んだ『雪の訓練生』もそうだったが、この人の小説は何とも感想が書きにくい。
とにかく前提がぶっ飛んでいる。何らかの事情により今とか全く変わってしまったディストピア的近未来。どのような社会なのかは読み進むにつれ徐々に明らかになってはいくものの、義郎の記憶を通じてしか語られないため曖昧な部分も多い。
この小説から何を受け取ればいいのか正直わからないし、何が伝えたいのかもよくわからない。未来への絶望なのか、それでも献灯使を送り続ける希望なのか。年寄りは死ねず、若者は早死にするというのは何よりも絶望すべき状況ながら、その絶望は死ねない年寄りのみが味わうものでいわば自業自得と言いたいのか。
そういったディストピアな世界でありながら最初の方に出てくる駄洒落めいた新日本語は妙にコミカル。全米図書賞受賞とあるがこの部分どう訳したのだろうか興味がある。同時に収録されていた『不死の島』では少し種明かし的な内容も。
ただ、この小説を東日本大震災や原発と結びつけて読むと少し陳腐な気もしてくる。あくまでも震災は小説の舞台設定のきっかけであり本質は別の部分にあると思いたい。
※自身のブクログから転載しています。
読了日:2020年11月17月 評価:★★★☆☆
- 作者:多和田 葉子
- 発売日: 2017/08/09
- メディア: 文庫
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東山彰良『僕が殺した人と僕を殺した人』
帯の煽りが小川洋子さんじゃなければ敬遠してたかもしれない。小川洋子さんであっても台湾の話という事で登場人物名で読みにくそう…と手を出すのに勇気がいったが、読みだすとグイグイ引き込まれて一気に読み終えた。
台湾での少年時代の描写は本当に活き活きしていて頭の中に台湾の雑多な景色が浮かんできて映画を観てるよう。それぞれ影ある家庭環境のもと育まれていく友情はそれだけで十分に一つのストーリーであるが、そこに現代が加わることで更に深みが出ている気がする。
それは、この小説のもう一つの魅力である過去と現在の対比。その対比を際立たせる漢字の使い方と主語の入れ替え。このコントラストを主語の入れ替えを巧みにぼかしながら段階的に切り替えていくことで、どんどん読み進んでしまう流れになっていと思う。こういうパズル的な文章の書き方は推理小説的でもあるかな?と思ったらやっぱりそっち系の作家さんなんですね。
あと作者は私と同世代かな?出てくるアーティストが全て私のリアルタイムでちょっと楽しかった。一つ難をいうなら引用した小説をネタバレ的に説明するのはちょっとどうかと…
あと皆さん指摘の通り、私もスタンド・バイ・ミーが思い浮かびました。
※自身のブクログから転載しています。
読了日:2018年6月12月 評価:★★★★☆
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