多和田葉子『献灯使』
前に読んだ『雪の訓練生』もそうだったが、この人の小説は何とも感想が書きにくい。
とにかく前提がぶっ飛んでいる。何らかの事情により今とか全く変わってしまったディストピア的近未来。どのような社会なのかは読み進むにつれ徐々に明らかになってはいくものの、義郎の記憶を通じてしか語られないため曖昧な部分も多い。
この小説から何を受け取ればいいのか正直わからないし、何が伝えたいのかもよくわからない。未来への絶望なのか、それでも献灯使を送り続ける希望なのか。年寄りは死ねず、若者は早死にするというのは何よりも絶望すべき状況ながら、その絶望は死ねない年寄りのみが味わうものでいわば自業自得と言いたいのか。
そういったディストピアな世界でありながら最初の方に出てくる駄洒落めいた新日本語は妙にコミカル。全米図書賞受賞とあるがこの部分どう訳したのだろうか興味がある。同時に収録されていた『不死の島』では少し種明かし的な内容も。
ただ、この小説を東日本大震災や原発と結びつけて読むと少し陳腐な気もしてくる。あくまでも震災は小説の舞台設定のきっかけであり本質は別の部分にあると思いたい。
※自身のブクログから転載しています。
読了日:2020年11月17月 評価:★★★☆☆
- 作者:多和田 葉子
- 発売日: 2017/08/09
- メディア: 文庫
※テーマ画像は Gerd Altmann さんによる Pixabay からの画像をトリミングして使用しています。