読書の記録

スマホ見る時間を減らそう!と始めた「年間52冊=週1冊」目標の読書生活の記録です。

原田マハ『たゆたえども沈まず』

読み出してすぐに『月と六ペンス』を思い出した。といっても内容はすっかり忘れてたけど。何だか芸術家は本人だけでなく周りも大変なんだな…とつくづく。ゴッホが苦悩の人なのは何となく聞いてたけどこういう物語がつくと絵の見え方も変わってくる気がする。

フィンセントとテオの繊細な兄弟愛に加え重吉とテオの友情など色々な要素がある中でも、林忠正という稀有な日本人の話として読んでも面白い。この小説で初めて知ったけどこの人の実在の方なんですね。多分展示会とかでも説明があっただろうに全然気づいてなかった…この人だけでも一つの物語ができそう。

また、小説を通じて知識や世界が広がるのも本を読む楽しみの一つだけど、この本はそういった愉しみをも与えてくれる。

印象派の台頭とポスト印象派の萌芽、当時のパリの華やかさ、近年よく展示会も行われてる印象派へ影響を与えた浮世絵の世界、などなど。

改めて『月と六ペンス』読んでみようかな?

※自身のブクログから転載しています。

 

読了日:2018年3月18月 評価:★★★★★ 

たゆたえども沈まず

たゆたえども沈まず

  • 作者:原田 マハ
  • 発売日: 2017/10/25
  • メディア: 単行本
 

※テーマ画像は Gerd Altmann さんによる Pixabay からの画像をトリミングして使用しています。

高山羽根子『首里の馬』

連続と断絶、様々な断絶を含みつつも世の中は連続的に存在する。いや、断絶は連続の中に存在するからこそ断絶なのであって単独で存在した場合、それは一つの事実であって断絶にはなり得ないのか。

断絶にも様々な形がある。政治的な事や重過ぎる愛、人質。戦争や台風による強制的な断絶、自ら望んだ断絶、さらには理解できないものへの拒絶。

この物語で語られるのは、様々な断絶とそれを乗り越える力。そもそも完全な断絶なんてありえないという気付きから決意を持って自分で未来に向かって歩き出すヒコーキに乗った未名子の姿が清々しい。

舞台の沖縄はまさに断絶と連続の歴史を象徴する存在。テーマから舞台を選んだというよりも、沖縄からテーマを切り出したのだろうと思われるくらいに物語の内容に寄り添い、程よい演出となっている。

全体的に静かで派手さはないが、純文学らしい深みを感じるいい作品でした。

※自身のブクログから転載しています。

 

読了日:2020年8月1月 評価:★★★★☆ 

【第163回 芥川賞受賞作】首里の馬

【第163回 芥川賞受賞作】首里の馬

 

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松浦理英子『最愛の子ども』

テレビで村田沙耶香さんが〈おすすめの恋愛本〉として紹介してたのを見て読んでみた。これって恋愛小説なのか??との疑念はさておき、とてもいい作品だった。

表面的には女子高生のたわいもない話なのかもしれないが、表現されていることはとても深く感じる。そもそも話は一部の事実を基にした想像上の物語、それを「わたしたち」という一人称を使うことで読書自身もその仲間にされていまっている感覚に陥る。

一方で愛情と恋愛の未分化な感情、幸せな家庭とそうでない家庭、その子供達への影響、男子と女子、リーダー格とグループの雰囲気、こんな色々なテーマが散りばめられていて、それを「わたしたち」視点でまるで箱庭を覗くような感じで眺めている自分もいる。

そしてそれらを表現する圧倒的に美しい文章。小川洋子さんや村田沙耶香さんの文章が好きな私にとって同じような素敵さがこの作品にはある。寡作な作家さんのようだが、他の作品も読んでみようと早速『親指Pの修行時代』を買ってきた!今から読むのが楽しみです。

※自身のブクログから転載しています。

 

読了日:2019年3月21月 評価:★★★★★ 

最愛の子ども

最愛の子ども

 

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原田マハ『サロメ』

 以前モロー展で観た『出現』。あの絵で初めてサロメのモチーフを知りその禍々しさに、なんとも言えないドロっとした恐ろしさを感じた。

同じモチーフで書かれたオスカー・ワイルドの『サロメ』とビアズリーによる挿絵。そして更にその人間模様全体さえもをサロメというモチーフで語るのが本作原田マハの『サロメ』。禁断のテーマに魅せられた人々がサロメさながらにその情念を露わにしていく様は、サロメというテーマにぴったりなドロドロした感情が渦巻いていて、非常に緊迫した空気感漂う作品となっていると思う。軽い方の原田マハさんが好きな人は、この展開には少し驚くのではないかな。

オーブリーとオスカー、ダグラスとオスカー、そしてメイベルの思い。サロメのモチーフが幾重にも重なったかのような展開はビアズリーの絵のように緻密で迫力がある。特に自身に内在するサロメ性に目覚めたメイベルは正にファムファタール。人生をかけてサロメを演じきったのだろう。メイベルのオスカーに対する感情は直接的な思いと屈折した思いが混ざったサロメそのものだったのかも知れない。やはり本当に怖いのは女の情念…

敢えて難を言うならオスカーの人物描写かな。それまでの怪しい雰囲気がパリ行きキャンセルから一転、一気に存在感がなくなるのは何かの意図があるのか。もう少しその魅力を厚く表現されていればラストシーンがもっと映えたかも。まぁ作者も編集者も考えた末でしょうからやっぱりこのバランスが良かったのかな。

あと皆さんの言うとおり現代パートは不要ではないかな…楽園のカンヴァスの二番煎じ感だけが残る。本編が良くできてるんだからこの仕掛けは蛇足と感じた。

そういった細かいところを除けば十分に楽しめる作品でした!

 

読了日:2020年6月21月 評価:★★★★☆ 

サロメ (文春文庫)

サロメ (文春文庫)

 

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今村夏子『木になった亜沙』

何とも不思議な三つの短編。表題作の『木になった亜沙』と続く『的になった七未』はタイトルからしても類似した作品。初出は2017年と2020年なので少し差があるが、これをまとめてあることには意味があるのかな?食べてもらえない、と物が当たらない、事から始まる何とも物悲しい人生が形を変えつつも満たされたと見るべきなのか?二つの作品の差を読み取れれば作者の表現したかったことが浮き彫りになるのかもしれない。

 個人的には『的になった七未』に出てくる「あたればおわる」が印象に残った。色々なストレスの中で「諦めちゃえば楽になる」という気持ちになる事もあるが、そう言った感情を思い起こさせるシーンだった。それにしても何とも救いのない話というか、これが作者流の救いなのか。何とも不思議な読後感でした。

 最後の『ある夜の思い出』は設定からして更におかしな事になってる。腹這いて街中を徘徊するとか想像すら難しいけど、なんだか滑稽でほのぼのした気もする。何とも捉え所のない短編集でした。

 

読了日:2020年6月7月 評価:★★★★☆ 

木になった亜沙

木になった亜沙

 

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村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』

村田沙耶香さんの作品を読むといつも自分の嫌な部分を晒されているような気分になる。その感覚がクセになり何とも魅力を感じる。

本作も思春期の女の子の話でありながら、それに留まらず男性が読んでも共感できるドロドロした感情に満ち溢れていると思う。こうした拗らせ感は男性女性に関わらず存在するものなのか、自分自身が女性的なのか…

またこういった内容を殊更に強調するような汚い言葉がよく出てくるが、綺麗な文章の中で語られるので何とも奇妙な品がある。

・この街は、驚くほど従順に、夜に飲み込まれていく。

とかはとても詩的だし

・信子ちゃんの顔を見ていると、点数の悪い答案を見せ合いっこしているみたいで、なんだか落ち着いた。

は言ってることは酷いが何だかユーモラス。
こういった言葉選びのセンスが非常に心地良くこの人らしさを感じる。

この作品に関しては最後はっちゃけることもなく、きっちりと締められていくことも良かった。伊吹くんというブレない清涼感の存在のおかげで主人公のズレ感をところどころで客観的に認識できる事が作品全体を読みやすいものにしているのかもしれない。

村田沙耶香ワールドを堪能できる素敵な作品でした。

※自身のブクログから転載しています。

 

読了日:2019年5月6月 評価:★★★★★ 

しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫)

しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫)

 

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村田沙耶香『地球星人』

芥川賞受賞後もブレない村田沙耶香ワールドが全開!『殺人出産』や『消滅世界』では主人公が一般的な感覚に近く世間の方が私たちからすると異常だったのが、『コンビニ人間』では主人公が"少し"変わっていて世間は普通と逆転、今回も『コンビニ人間』同様の設定ではあるが…

冒頭こそ「あれ?いつもと少し違う?」と思ったが、読むにつれいつも通りの"世界からの疎外感"と"一体化へのあこがれ"を軸に話は進行、異常な事も含め淡々と語られていく。この世は工場で恋は生産性を高めるための麻酔という捉え方も村田沙耶香さんらしく面白い。あと、どなたかも書いていたけど安部公房『人間そっくり』を思い出した。

で、ラスト…これはこうでないといけなかったのか、もうちょっと他の結末はないものなのか?らしいといえば、この上なくこの人らしいラストだが、正直まだこの展開の必然性が飲み込めてない。『タダイマトビラ』と同じような方向でそれ以上インパクトといえばいいのか…

あまりといえばあまりなラストなので、ちょっと他人に薦める気にはあまりならないが自分にとっては村田沙耶香ワールドが堪能できて楽しかった。ラストシーンの解釈については時間を空けて改めて考えたい。

※自身のブクログから転載しています。

 

読了日:2018年11月25日 評価:★★★★☆ 

地球星人

地球星人

※テーマ画像は Gerd Altmann さんによる Pixabay からの画像をトリミングして使用しています。